科学技術基本計画/地域課題の解決に生かそう
日本が目指すべき未来社会の姿として、政府は「Society(ソサエティー)5.0」を提唱している。第5期科学技術基本計画(2016〜20年度)のコンセプトで、人類がたどってきた「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」に続く5番目の社会を構築するという意味合いから名付けられた。
内閣府によると、人工知能(AI)やビッグデータといった革新技術を最大限に取り入れ、経済発展と社会的な課題解決との両立を図り、人間中心の世界を築く。生産性向上だけに焦点を当てるのではなく、社会のありようを変えようとしているのが特徴だ。
前段の情報社会(ソサエティー4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分だった。人間が必要な情報を見つけて分析するのに膨大な負担が掛かるという問題もあったといえる。グローバル化が進み、温暖化や経済格差といった地球規模の問題は深刻化した。迅速に解決策を見いださなければならない。
ソサエティー5.0では、モノのインターネット(IoT)で全ての人とモノがつながり、知識や情報が共有される。現実空間の膨大な情報が仮想空間に集積され、AIが解析して人間社会に還元するイメージだ。医療や介護といった分野で活用できれば、効率的で質の高いサービスの提供にもつながるだろう。
岩手県は2020年度一般会計当初予算に、ソサエティー5.0の実現に向けて27項目の関連施策を盛り込んだ。農林水産、科学技術、製造、教育と分野は多岐にわたる。
情報通信技術(ICT)、IoTのノウハウを持つ都道府県や政令指定都市は多い。だが、人口規模の小さい市町村にとって障壁はまだ高く、計画策定の支援や実証実験のデータ還元が重要となる。
東北では農業分野での取り組みに注目したい。農業・食品産業技術総合研究機構はソサエティー5.0の農業・食品版として、ロボット、ICTを活用し、省力化や生産性向上を図る「スマート農業」の加速化に取り組んでいる。
無人トラクターによる土壌整地やドローン(小型無人機)を使った農薬散布など実用化された技術も少なくない。人口減少や少子高齢化で担い手不足に苦しむ生産地に光明を与えることが期待される。
現在、スマート農業を巡る議論が起きている。政府が新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急経済対策としてスマート農業の効果実証事業を盛り込んだからだ。外国人実習生が来日できず深刻な労働力不足に陥ったのが理由だが、農繁期の人手不足をすぐに補える見込みは乏しく、「不急」との批判を生んだ。
将来を展望すればスマート農業の必要性は論をまたない。新しい技術を習得した人材を生産地の核として育成することに重点を置きたい。
2020年04月26日日曜日
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