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トランプ大統領とバイデン候補、結局はどちらか? - JBpress

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これまでの記事を通して大統領選の論点と今後の展開を整理する

最後の追い込みをかけるトランプ大統領(写真:AP/アフロ)

 古代ギリシャの哲学者プラトンによる『国家』の中に、今の社会を予言するような描写がある。曰く、父親は息子を恐れ、息子は両親の前で恥じる気持ちも恐れる気持ちも持たない。教師は生徒を恐れてご機嫌を取り、生徒は教師を軽蔑する。若者は年長者と同様に振る舞い、年長者は若者に合わせてご機嫌を取る。犬は飼い主のように行動し、馬でさえも出会う人をよけずにぶつかってくる──。

 自由と平等が広く行き渡る社会では、すべての人が強い権利意識を持つようになる。すると、ほんの少しの抑圧にも我慢ができず、エリート層への不満をためる。そこに、高い大衆人気を誇るポピュリストが颯爽と現れ、不満をためる民衆を熱狂的な渦に巻き込む。そして、独裁者が生まれていく。僭主独裁制が生まれるのは民主制以外にはあり得ない。それを語るために、自由と平等を手にした人間の姿を描いたのだ。

 社会的分断が加速している米国を見ると、プラトンが予言した民主制の最終形に近づいているように見える。このまま社会の亀裂が拡大し続けるのか、それとも市民を熱狂させる独裁者が現れるのかは分からない。ただ、少なくとも言えるのは、今回の大統領選の勝者が米国を融合させることはなく、人々の中に残ったしこりが今後4年にわたってさらなる火種になることだ。

世論調査や学者の予測の多くはバイデン勝利

 11月3日、米国で大統領選の投開票が実施される。JBpressはこれまで、大統領選に関する記事を数多く公開してきた。そういった記事をひもときつつ、今回の大統領選を巡る論点と今後について改めて整理しよう。

【本記事には、JBpressのこれまでの記事へのリンクが多数含まれます。配信先ではリンクが切れている場合がありますので、JBpressのサイト(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62758)にてご覧ください】

 まず、ジャーナリストの堀田佳男氏が「米大統領選徹底予測:バイデン勝利の信憑性は」や「学者が予測する米大統領選の勝者とは」で紹介しているように、世論調査会社や政治学者、統計学者など大統領選の勝者を予測している人々の多くはバイデン候補が勝利すると見ている。

 もっとも、4年前も大半の調査会社は「ヒラリー勝利」と予測したが、結果はトランプ大統領が勝利した。今回も数字上はトランプ大統領の劣勢だが、選挙の直前にバイデン候補の息子ハンター・バイデン氏に不祥事が浮上したこともあり、激戦州を中心にトランプ陣営も巻き返しつつある。

支持率では今もリードを保つバイデン候補(写真:AP/アフロ)

 ハンター氏にまつわる疑惑については、ジャーナリストの福島香織氏による「バイデン息子スキャンダルの裏に『中国の仕掛け』説」や小川博司氏の「バイデン親子が「中国で儲ける説」の裏付けが続々」にあるように、副大統領時代のバイデン候補の威光を海外企業とのビジネスに活用したという疑惑だ。

 もっとも、大手メディアの大半は信憑性に乏しいと積極的に報じず、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアもハンター氏の疑惑を報じたニューヨーク・ポストの記事にアクセス制限をかけた。当然、トランプ陣営やトランプ支持者からは怒りの声がわき起こる。プラットフォームか、メディアなのか──。今回の問題はソーシャルメディアを巡る本質的な問題に再び光を当てることになるのではないか。大手メディアの「バイデン推し」については、ジャーナリストの古森義久氏が「トランプ感染を大喜び、バイデン推し偏向報道の異様」で詳述している。

 また、エリート知識人のための政党と化した民主党が抱える矛盾を指摘する論考も出ている。在米ジャーナリストの岩田太郎氏は「バイデン支持の知識層は4年前の「失敗の本質」に学んだか」という3回シリーズで、労働者の党を標榜しつつも労働者に敵対し、寛容を掲げながら非寛容で、黒人の味方を装いながらも放置すると民主党の偽善を喝破している。

 こういった記事を読み解けば、ワシントンDC在住の酒井吉廣氏が「激戦州ではかなりの接戦、バイデン楽勝ムードの虚実」で書いたように、選挙人を巡る争いは接戦と見るのが妥当だろう。

選挙後の混乱は不可避か

 また、今回の大統領選では結果判明が長引く可能性も指摘されている。その最大の要因は郵便投票の存在だ。そもそも郵便投票はコロナ禍の中、投票所に行くリスクを減らすための手段として活用が進められた。ただ、米国の郵便事情に日本ほどの信頼性はなく、二重投票や投票用紙の盗難リスクが囁かれていた。

 先の酒井氏が「大統領選の投票結果を破壊する3600万票の行方」で指摘するように、連邦最高裁はペンシルバニア州の郵便投票の消印有効期限を11月6日まで延期すると発表した。投開票が終わった後に、続々と届く郵便投票が選挙結果に影響を与えないと思う方がおかしいだろう。投票用紙のサインの本人確認をしない州もあることを考えれば、激戦州の結果を両陣営がすんなりと受け入れるとは思えない。20年前のジョージ・ブッシュ候補とアル・ゴア候補のように選挙結果を巡り裁判になることも十分にある。

 それでは、選挙後に何が起きるか。最悪の事態は「米大統領選、2割が支持候補負けたら抗議・暴力も」で描く抗議活動の激化と暴動だ。既に、トランプ支持の武装集団(ミリシア)が投票所で威嚇するという懸念も出ている。仮に、投票結果を巡り暴動が起きれば、米国の民主主義史に重大な汚点を残すことになる。

 今回の大統領選はトランプ政権の4年間に対する審判であると同時に、プログレッシブ(進歩主義)と呼ばれる民主党左派による“革命”という面もある。バイデン候補は元来、中道左派の政治家だが、予備選を戦う中でサンダース上院議員を支持する層を獲得するためプログレッシブにシフトしている。中には、バイデン候補はプログレッシブの操り人形であり、大統領選で勝利すれば用済みになるという指摘まである(大統領になれば用済みになるバイデン候補の悲哀)。高齢で健康不安を抱えるバイデン候補が4年間の任期を務め挙げることができるかどうかは分からない。ハリス副大統領候補への禅譲シナリオも現実味を帯びる。

 いずれにしても、大統領選後の混乱は避けられそうもない。それは、米経済やマーケット、世界情勢に大きな影響を与えるだろう。将来的に、フランスの思想家・経済学者のジャック・アタリ氏が「米中衰退のコロナ後はGAFAMが超大国になり得る」で指摘するように、イデオロギー分断など自国内に山積する問題に専念するため、国際舞台の中央から退くことになるのかもしれない。あるいは、用田和仁氏の語る米中の本格衝突(「始動、中国の息の根止める三重の包囲環構想」)が現実になる可能性もある。

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