パタゴニアは健全な土壌を作り出す「Regenerative Organic Agriculture(リジェネレイティブ・オーガニック農法・以下、RO農法)に注目し、同農法によって製造された綿や食品のラインナップを拡大した。同農法は従来の農法に比べて土壌生物の多様性に優れ、より炭素(CO2)を固定する機能があるため気候変動の抑制に効果があるとされる。同社はすでに1996年からすべての綿製品をオーガニックコットンにしているが、今後はRO農法による綿製品を拡大するため、インドの150以上の農家と契約をした。農薬や化学肥料を利用した工業型の農業とは対極にある自然の力を最大限に生かした農法により気候変動対策に一石を投じようというパタゴニアの姿勢は他業種にも影響を与えそうだ。(環境ライター箕輪弥生)
パタゴニアは気候変動への対応として3つの方向性をあげている。ひとつは2025年までに再生可能な天然素材、もしくはリサイクル素材のみで製造すること、2つめが必要なエネルギーを再生可能エネルギーへ転換すること、そして3つ目が“炭素を土に戻す”ためにRO農法によってコットンや食材を調達することだ。
RO農法は「保全型農業」とも呼ばれ、農業の持つ物質循環機能を生かすために、化学肥料や農薬の使用を抑え、土を耕さず、輪作や混作を行い、作物を栽培していない期間も草や他の植物などで地表を覆う。
福島大学で食農学を教える金子信博教授は、「土壌には大気の2倍から3倍に相当する炭素が土壌有機物として貯えられている」と指摘、「もし土壌炭素を年間0.4%増やすことができれば、大気中のCO2の上昇を相殺できる」と話す。
金子教授はまた、土壌のCO2を増やすためにはRO農法が効果的であることを日本の農地での実験で確認した。この実験によれば「生物多様性が豊かな土壌はCO2の吸収量も多い」という。
パタゴニアは、このような実証結果をもとに、オーガニックからさらに進んで環境を再生させるROへの取り組みを進める。
「大規模で工業的な農業は環境的にも問題を起こす原因となるが、RO農法は解決策となる」とパタゴニア日本支社環境・社会部門の佐藤潤一シニアディレクターは話す。
つまり、森林を開拓し農地に変え、農薬や化学肥料によって土壌を弱らせたことが気候変動を作りだす要因になった一方で、RO農法は動植物が共生的な循環をつくりCO2を固定する場所になる。
パタゴニア日本支社は2016年から食品事業「パタゴニア プロビジョンズ」を始めたが、今回新たにニカラグアの森林でアグロフォレストリーを行う農園「ソル・シンプレ」において育てたマンゴーを使った製品を加えた。
コーヒー、アボカド、マンゴー、バナナ、カカオ、柑橘類などが一緒に育っている農園では、鶏や豚が木々の間を歩き、それぞれの生態系が共生し循環する。森林を伐採せず、樹間で家畜や農作物を飼育・栽培するアグロフォレストリーはRO農法と親和性が高い。ソル・シンプレは今年の春、世界で初めてリジェネレイティブ・オーガニック認証を取得した食品サプライヤーとなった。
一方、インドにおいてRO農法で生産されるコットンも、ウコンやとうがらし、マリーゴールドなどと共に植えられ、薬草をすりつぶした防虫剤などを使う。
世界の温室効果ガス排出量の4分の1近くを占める農業は気候変動に大きな影響を与える。「解決策は土壌にある」と佐藤ディレクターが説明するように、炭素を固定し、環境を再生するリジェネレイティブな農業をさらに広げていく必要がありそうだ。
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July 28, 2020 at 02:23PM
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